支部からのお知らせ

  • 投稿:2008年8月8日
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【連載】JIAデザイントーク

JIAデザイントーク


●2007年度 第5回デザイントーク
開催日:2008年3月24日(月)
コメンテーター:岡本隆、小島孜、本多友常
司会:青砥聖逸
発表者:正井徹、森村政悦
会場:大阪市中央公会堂地下大会議室



■正井 徹氏(正井建築舎
発表作品/急傾斜地の家(兵庫県西宮市)
西宮市の市街地、丘陵の南東斜面に建つ住宅。
敷地は急傾斜地崩壊危険区域に指定されており、タイトルはそこから名付けたものです。 住まい手との出会いは少し異例で、この敷地で既に着工の緒についていた工務店(設計施工)との請負契約で生じた紛争相談から。その後、様々な経緯から設計をお引き受けする事になったのですが、そもそもの出会いがそんな感じでしたから、望まれていたのは「普通の家」。 斜面地ではあるものの敷地に立っての眺めはさして良いものではありませんし、下手の空地では集合住宅の計画もある。住まい手も周辺の平坦地より桁違いに安い土地価格に惹かれてこの土地を求めたのであって眺望云々が特段の購入理由でもなかった・・・ならば、この与条件の上で家族5人のための「普通の家」=身の丈にあった暮らしやすい住まいを造ろうと試みたのがこの住宅計画でした。



具体的には、支持地盤面と基礎からの安息角で決まる接地面形状と北側斜線による高さ制限によってほぼ決まる外観ボリュームの中で、支持地盤まで掘り下げた地階を子供たちのためのワンルーム空間とし、その上階は空中側・地中側共に天秤状にスラブを伸ばす事によって、普通に住まいの中心である家族の間と家事空間をワンフロアに納め、アプローチとなる最上階は玄関のみとする事で、道路側からは小さな佇まいに仕立てながらも、家族が集う場に広がりのある空間を与えた住宅、となっています。
2008夏 Dトーク1
外観写真
2008夏 Dトーク2
内観写真
2008夏 Dトーク3
断面図
■森村政悦氏(森村建築設計事務所
発表作品/佐竹台の家(大阪府吹田市)
敷地は大阪府吹田市に位置し、新御堂や阪急電車により都市からのアクセスが非常に良い場所である。周辺環境は緩やかにのびる起伏のある斜面に、ゆとりのある良好な住宅と緑豊かな自然が点在する静かな住宅街に位置する。
この建物は、母親と成人した二人の子供のための住宅である。地震等の災害に対して壊れくい免震機能を持つ住宅を計画した。
全面道路と敷地の高低差が1.5mある。免震装置のベースとなる基礎部分は地面に埋設されながらも、免震層が道路部分と同レベルでアプローチすることにより、建築基準法上、地上1階地下1階の階層となり意匠と構造の関係が成り立つ。
この建物は、全面道路から一方向に開放された免震層を通過するかたちでアプローチする。 免震層は、駐車場と階段室を兼ねたアトリウム的空間で光とさわやかな風を提供してくれる。
立地条件として、低層住宅街ではあるが、南側及び東側には敷地より用壁と隣接する建物により太陽光の導入が弱いため、中庭のあるプランとし、光や風、また玄関アプローチも兼ねることで、地下エントランスとを結びつけている。
上部構造は、鉄骨の周りを薄いコンクリートの皮が覆うような形状をしている。プランは、ワンルーム空間を四個の収納BOXで各用途に分節した2LDKである。北西に開いた大きな開口部と中庭の吹抜けから、風と光を室内に導き入れ、個室に面した南東側の開口にはガラスブロックにより、自然光を取り入れながら近隣の視線を緩和している。
また免震層が道路レベルと同じにすることにより、解放された免震層空間は、目視による確認やメンテナンスを容易に行うことができ、また、デザイン面では、建物の「底」という新たな一面を垣間見ることができる。
この免震住宅では、いままでのような壊れまいとひたすら剛性を確保してきた耐震構造とは別に、住まいを地面から切り離す事を具体化したモデルとなりました。 現実的に、住宅レベルでの使用はコストの関係もあり未開発な部分が多々あるが、震災を経験した私たちにとって、安全性について具体的にデザインする必要があることはもちろんですが、特に住宅において幅のある適応が必要だと考えます。
2008夏 Dトーク4
外観
2008夏 Dトーク5
配置図
2008夏 Dトーク6
ダイアグラム
■コメンテーター総評コメント
正井徹氏「急傾斜地の家」
奇抜で表現的なものより「普通の家」というコンセプトには共感を覚える。複雑な敷地地盤条件をよく工夫された素直な断面構成にまとめあげている。議論となった点は、一つは崖側の景観が将来期待できないと言う割に崖側からの立面がまるで広々と下界を見下ろす住宅かのように見えること(当面はそのとおりかもしれないが)。ヨーロッパの急斜面住居のように崖への見晴らしとは別の開放感を作り出す仕組みはないものだろうか。もうひとつはアクセスレベルからの景観でそっけないのも魅力ではあるが、もう少し住居空間への期待が高まるような表情が出ると道としての景観が豊かになるのではないか。
森村政悦氏「佐竹台の家」
大胆かつきめ細かいデザインで構成されている作品。少し戸惑いを感じるのは周辺の普通の家々が並ぶ中に「建築家のデザインした家」がまったく異なる風景を作り出しているように見えること。もともと新興住宅地というものはこのような住宅品評会的な景観を呈するものなのか・・。まちなみづくりという視点から各個が共有・協力できるアプローチが欲しいものだ。
一方、あとの懇親会でこの住宅の建設に当たっての森村氏の苦労話(工務店倒産後現場を引き受けながら次の工事者へとつないでいった話)を聞かせていただき建築家が物を作り上げる執着心・責任感に感動した。【岡本 隆】
お2人とも1作品だけの発表でしたが、「斜面地という特殊な敷地での、設計者いわく普通の家」と、「普通の造成地での、免震という特殊な要求に答える家」という、デザイントークとしては絶妙の組み合わせとなり、充実したやりとりの中、住宅設計における作品性について考えさせられました。特殊性を強調するだけではなく、特殊性を手がかりにして、造成地という「普通性」に「普遍性を内蔵する固有性」を与えた佐竹台の家に、作品としての価値、魅力を感じました。【小島 孜】
土地にたいする条件の捉え方が建築の在り方を大きく左右する例として、両者の設計はともにインパクトをもったプロジェクトとなっている。
正井徹氏による急傾斜地の家は、支持地盤まで掘り下げた箱の上に乗る主空間の構成が、個性的な断面計画を生み出している。斜面が急傾斜でありすぎるため、設計の意識は土地と建築を切り離す方向に向けられているが、立地のハンディを乗り越える工夫として内部空間と斜面地の空間的な繋がりに、さらなる可能性があったのではないかという思いは残る。しかし土地のハンディを、建築のプラス面にまで昇華させるのは言葉では易くても、実現の難しいことは承知の上での議論である。
森村政悦氏による佐竹台の家は、宅地造成された敷地と道の傾斜が生み出すレベル差を逆手に取り、「土地の切り込み」と「その上に浮遊する空間」を、免震装置という存立理由を介入させることにより組み立てている点で、高い構成力を見せている。また素材とディテールに向けられた完成度への執着には目を見張るものがある。
古くて新しい課題ではあるが、完成度や作品性の今日的な意味について、改めて一石を投じてくれたプレゼンテーションであった。【本多友常】

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